一体こういうことは誰に相談すればいいんだろう。
ヤンガスだと…違うかな。兄貴兄貴と慕ってくれているけど、こういうことを相談するのは何だか照れ臭い。
ゼシカは絶対話してくれないだろうな。どうやら何か企んでいるのは彼女みたいだし。そうでなかったら頼りになるんだけどなあ。
やっぱりククールかなあ?あれくらい豊富な人生経験ならきっといいアドバイスしてくれるかも。そういえばこの前、
「おまえらいい加減にしろ」
とだけ返事来たんだけど僕たち何かしたかなあ。近況を話しただけだったんだけど。
うんそうだ、ククールに相談してみよう。

                     ※              ※              ※

「うっ、浮気?!」
「シーっシーっ」
「ああ、悪い悪い。ちょっとびっくりしたもんで。で、証拠はあるのか?」
あまり気になるので結局ククールに城まで来てもらった。
「確証はないんだけど…」
かくかくしかじか、と情況を説明すると、なぜかククールの顔にニヤニヤ笑いが広がった。
「ふうん、そうなのか。ま、もうちょっと様子見てみたら。俺のカンだとそれは浮気じゃないぜ」
「そうかな…ミーティアが隠し事するなんて何だかショックで」
はぁ、とため息をついたのにフンとばかりにあしらわれた。
「惚気るのも大概にしろよ」
「のっ、惚気てなんかないよ!僕は真剣に」
「あーハイハイ、ごちそうさまでした。…ま、そのうち分かるって。あまり気にすんな」
ポンと一つ肩を叩くと、
「じゃあな」
と手を振って帰ってしまった。はあ、ククールでも駄目か…
ん?「そのうち分かる」?
もしかしてあいつもグルかー!

                     ※              ※              ※

うう、兄貴に申し訳ないでがす。
ゼシカの姉ちゃんとククールの野郎が兄貴に隠し事しているらしいんでがす〜。なのにアッシには何も教えてくれないんでげすよ。
どうやらその隠し事ってのが馬ひ…いやミーティア姫様に関わることらしいんで、兄貴がえらく心配しているでがす。
アッシもかなりしつこく聞いてみたんでがすがねぇ、あいつら口が固いんでげすよ。
最初は、
「何のことかしら?何も隠し事なんてしてないわよ」
「気のせいだって。何で俺たちがヤンガスに隠し事するんだよ」
…アッシの眼は節穴ではないでがす。明らかに二人とも眼が泳いでいるでがすよ。
それでしつっこく聞いてみたんでがす。そしたら、
「知らない方が身のためよ〜」
「大体ヤンガスはエイトのことになると目の色変わり過ぎだって」
「そうそう、別にたいしたことじゃないんだし、気にしないでよ」
たいしたことないんだったら教えてくれてもいいんじゃねえかと思うんでげすがねえ。
「残念だがレディーの秘密は教えられないね」
「ヤンガスには教えられないわ。聞いたら絶対エイトに話しちゃうもの。だから知らない方がいいのよ」
うう、隠し事されている兄貴が可哀相でがすよ〜。でも結局何も聞き出せないでしまったんでげす。
なのにある日トロデーンに呼ばれてしまったんでがす。きっとあのことでげすよ。どうしやしょう。
「ミーティアが隠し事しているみたいなんだ」
…やっぱりその話でげすね。
「どうもククールやゼシカもグルみたいだし、ヤンガスは何か聞いてない?」
ちゃんと聞いてない、だから全然知らないって言ったんでがす。なのに兄貴ったらひどいんでげすよ〜。
「本当に何も知らないの?あいつらと何か企んでいるんじゃない?」
アッシが兄貴に隠し事する訳ねえでがす!それが男の友情ってやつでげす!知っていたら全部包み隠さず伝えるに決まっているでがす。
結局兄貴には疑われたままでがす。あいつらひどいでげす。それにミーティア姫様もアッシの大切な兄貴に何隠し事しているんでがすか。ミーティア姫様ならばとお任せしたのに兄貴に心配かけるなんてひど過ぎでげす!

                     ※              ※              ※

どうも心配だ。
ククールからの助言に従ってミーティアの隠し事には気付かないふりをしている。どうやら浮気ってことではなさそうだし。
夜中に僕の隣から起き出してどこかヘ行くのは変わらない。それどころか抜け出している時間が長くなっているようだ。以前と違って疲れ切った様子で戻って来るミーティアを見ると、ヤキモチだの心配だのということはすっかり忘れて労って遣りたくなる。
最初の頃の満足した様子ならば何の心配もない、いや、それはそれで心配かな、でもこんなに疲れ切ったミーティアを見るのはとても辛い。
一生懸命微笑みを絶やさないようにしているけど、頬が蒼ざめている。明らかに睡眠時間が足りないんだ。
昨夜も戻って来たのは夜明け近くだった。身体の芯まで冷え切って戻って来たミーティアがあまりにも可哀相で、寝ぼけたふりして抱きしめたんだ。
はっと身を硬くしたミーティアの肌の冷たさに思わずしっかりと抱きしめてしまった。気付いている、もう一人でどこかへ行くな、と言ってやりたかった。
無言のまま時が過ぎるうち(僕は寝息を装っていたつもりだった)、腕の中で囁きが聞こえた。
「ごめんなさい、エイト。…もうすぐ終わるから」
僕が起きていることに気付いていたとは思えない。それは多分眠る僕に対する囁きだったんだと思う。
それでもちょっと気が楽になって、凍えるミーティアの肌に温もりを分けてあげたくてただ抱きしめていた。僕の熱なんていくらでも奪って構わない、いつも、いつまでも守っているから、と。
寒さに震えていたミーティアも少しずつ落ち着いていき、
「ありがとう…」
の囁きとともに眠りに落ちていった。


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2005.1.21〜26 初出 2007.2.3 改定









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