それに気付いたのはある夜のこと。
私の頬に触れているエイトの指先が不自然に黒くなっていた。
「あら、これどうしたの、エイト」
不思議に思ってその手を取ってじっと見てみる。それは爪の間に挟まった土のようだった。
「ミーティア」
目を上げるとやや不満そうなエイトの顔があった。
「そんなのどうだっていいじゃないか」
「だって」
言い募ろうとする私の唇にエイトの唇が重なる。
「…もう」
誤魔化さないで、という言葉もまた唇の中に消えた。
「…昼間、兵たちの訓練に付き合っただろ?その時入ったんだよ」
漸く私を解放して、そんなことを言う。
「それでそんなに汚れたの?」
「本当だよ」
エイトったら、瞬きばかりしているわ。それは、嘘吐いている時の癖。それに嘘って決めつけた訳でもないのに「本当だよ」って、どういうことなのかしら?
「疑っているの?」
エイトの両手が私の頬を包み込む。
「気になるだけよ」
「だから嘘じゃないってば」
そう言いながら顔が近付いてくる。身を捩ったけれど、躱し損ねて唇の端に唇が当たる。
「エイトったら!」
「逃げるから追いかけたくなるんだよ」
そんなことを言いながら今度こそ、としっかり頬を挟まれて口づけされた。
「…だって、本当のことを言ってくれないんですもの」
深い口づけに何もかも搦め取られそう。でも言わなくちゃ。
「土いじりしたんでしょ?昔泥んこ遊びした時のようになっているわ」
「訓練場に埃が立つから、って水を撒いたらしいんだけど、ちょっとやり過ぎちゃったみたいなんだ。だからだよ」
胸にきつく抱き締められる。耳を啄むようにして囁くその声に、何だか、胸の奥が、きゅっ、としてしまう…
「だって…」
「いつまでもそんなことを言う唇なんて塞いでしまうから」
もう何も答えられない。何も考えられない。でも何を隠しているのかは絶対、確かめる、わ…


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2005.12.6〜10 初出









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