ミーティア姫の誕生日




「やあ、ククール」
気侭な日々を満喫していたオレはある日、急にトロデーンに呼ばれた。見るとオレだけじゃなくてゼシカやヤンガスもいる。これはいつものお茶会か?と思ったんだが、どうも様子が違う。いつもエイトにくっついている姫様がいない。
「どうしたの?エイトの方から呼び出すなんて珍しいじゃない」
「そうでがす。何かあったでげすか?」
「みんなごめん。急に呼んだりして。実はその…」
とエイトが口籠った。
「何だよ。遠慮するなって」
「そうそう。気にしないで。村での生活は時々退屈なの」
「兄貴のためなら例え地の果てからだって飛んで来るでがす!」
「みんな、ありがとう。ちょっと相談したいことがあってさ」
エイトはちょっと言葉を切った後、続けた。
「実はもうすぐミーティアの誕生日なんだ。何かいいプレゼントをあげたいんだけど、どんなものをあげたら喜んでくれるのか分からなくて。それでみんなの知恵を借りようと…」
「馬鹿か、お前」
阿呆らしい。そんなことでオレを呼ぶなっつーの。
「そんなもの決まっているじゃねえか。女が喜ぶものっつったら熱い一夜、これだな」
「ハレンチでがす!ハレンチでがすよ!」
「…馬鹿は死ななきゃ治らない、ってやつね」
周囲の冷たい反応と違い、エイトは聞いてきた。
「ゼシカ、メラゾーマはやめてね。…それで、例えばどんなの?」
「あっ、兄貴!こんな奴の言うことなんて聞いちゃいけねえでがすよ!」
「こんな奴で悪かったな。…そうだな、うーん、………とか、………とかってやつかな」
まあゼシカもいたし、大声で言える程オレもハレンチじゃねえ。エイトに耳打ちしてやった。どうせ知らないだろうから詳しく説明してやるつもりで。
「ああ」
ん?何だその薄い反応は。
「どっちも、やってるよ。時々だけど」
「なんだとーっ!」
やられた!初心な顔してどこでそんな知識仕込んだんだ。あーっ、これだから新婚は嫌なんだよ!
「去年は旅の中で誕生日だったし、その上呪われていただろ?『お誕生日のディナーは、雑草でした…』って言われた時はもう泣きそうだったんだ」
「そうよねえ…草以外の食べ物は受け付けない身体になっていたとは言え、あれは気の毒だったわ」
茫然自失のオレを無視して話は勝手に進んでいく。
「それで今年はその分の埋め合わせもしてあげたくてさ。そりゃ何でも喜んでくれるんだけど、もっと喜ばせてあげたいんだ」
「それなら兄貴、宝石なんてどうでげしょ?古今東西、宝石の嫌いな女なんて聞いたことがねえでがす」
「そうよね、ゲルダさんもそうだったしね」
「ゲっ、ゲルダの奴は関係ねえ!兄貴も何か言ってくだせえ」
お、オレを無視して話を進めるな。
「あの時は苦労したよなあ」
「ほーんと。あの時のエイトの顔ったら」
「う、うるさいな。心配だったんだから仕方ないだろ」
「そうだな、宝石なら喜ぶんじゃねえのか?」
漸く復活して口を挟む。
「うーん、でも伝来の物とか一杯持っているみたいだし。それに僕はそんなにお金持ってないよ」
「えっ、でもトロデーンの王族でしょ?宝石の一つや二つ、買うくらいのお金なんていくらでもあるんじゃないの?」
「そりゃあるけど、それは国のお金だから。僕のものじゃないし」
はあー、そりゃご立派だね。
「すごい武器とか貰っても嬉しくないだろうし、チーズだの薬草だのも困るだろうなあ…」
そりゃそうだ。ここはやはり女の子の意見の方が参考になるんじゃないのか?
「ゼシカはどうなんだ?」
「は?」
突然話を振られてすっとぼけた声を出すゼシカに畳み掛ける。
「ゼシカだったらどんなものを貰ったら嬉しいのか、ってことさ」
「うーん、そうねえ…月並みだけど、やっぱりお花かしら。たくさん貰ったらすごく嬉しいと思うわ」
「へえ…お花か…そう言えばミーティアの部屋にはいつもお花が飾られていたっけ」
エイトが感心している横でオレもこっそり納得する。道理で上手く口説けない訳だ。よし、今度は…
「……」
何だ?妙にじっとりとした視線が…
「ふん、大方酒場の女の子口説く時に使おうとか考えていたんでしょ」
「ちっ、違う。誤解だって。おい、エイト、助けてくれよ」
でもエイトの奴、ヤンガスと何か話し込んでいてこっちには目もくれやしねえ。
「分かったわ。ちゃんと送り届けてあげるから安心して。…がっちり縛り上げてね」
「待ってくれ、話せば分か」
「ラリホーっ!」
なんで、こう、なる…


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2005.12.6〜10 初出









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