冬の朝




ある寒い朝のことでした。
城の中とはいえ使用人の住まう辺りは暖房も行き届かず、明け方には冷え込みます。雪のほとんど降らないトロデーンですが、その分冷たい風が吹き付けて底冷えするのでした。石造りの城壁はしんと冷えて、敷物や壁掛けのほとんどないこの辺りはとても寒く、毛布を何枚掛けようと、朝にはすっかり冷えてしまいます。
「はっくしゅん」
なので、その朝エイトが自分のくしゃみで目を覚ましたのも無理はありませんでした。
(もう起きなくちゃ)
使用人の朝は夜明け前から始まります。特に夜明けの遅い冬場など真っ暗な内から作業を始めなければなりません。王様やミーティア姫様が目覚める前にはもう、準備が整っていなければならないのですから。
(でも寒いなあ。出たくないよ)
いくら暖房がないとはいえ、寝床の中には温もりがありました。寒い外に出るのは勇気が要ります。さらに目が覚めてむずむずし始めたしもやけの足をきつい靴に押し込む辛さを思うと、どうにも躊躇してしまうのでした。
(こうしていたって仕方ないや。えいっ!)
心の中で気合を入れ、勢い良く起き上がります。一番下っ端のエイトがぐずぐずしている訳にはいきません。
と、その時枕元で何かががさごそと音を立てました。
(えっ?!)
聞き慣れない物音に驚いて枕の辺りを探りました。すると眠る前には確かになかった何かの包みが置かれていたのです。エイトは急いでその包みを開きました。
「あっ」
包みの中身は靴下だったのです。薄暗がりの中でよく見ようと持ち上げたところ、カードがはらりと落ちました。



 エイトへ


     しもやけが痛いと聞いたのでくつ下を作りました。

    いつもお仕事ありがとう。

    とってもかんしゃしています。
  

                   ミーティア



カードにはそのように書かれていました。夜中にこっそりここまで降りてきたのでしょう。それにこの靴下の色は見覚えがあります。前にミーティア姫の部屋で遊んだ時に隅に置かれていた毛糸玉のものです。そういえばその時に「しもやけで足が痛痒い」と言ってしまったことを思い出しました。暖かい姫の部屋に入って、痒くなった足を掻いていたのを見た姫に問い詰められたのです。
エイトは深く感謝してその靴下を履きました。毛糸は柔らかく温かで、しもやけも我慢できそうです。後で姫にお礼を言って、履いている靴下を見せてあげました。
それからずっと、エイトはその靴下を履いていました。おかげでしもやけの痛痒さも随分楽になりました。
でも一つだけ、ミーティア姫に言わなかったことがあります。その靴下は右と左でちょっぴり大きさが違っていたのです。おかげで働いているといつの間にか片方がずり落ちてしまうのでした。




                          (終)




2005.11.18 初出 






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