真夏の午後




晴れ渡った空、どこまでも続く牧草地。熟れた小麦の穂が午後の太陽に輝く。陽射しに緑の陰が、濃く強いコントラストを見せる。
誰もがまどろむそんな午後、子供が二人、草むらから顔を覗かせた。
「どこにいるの?」
女の子―ミーティアが辺りを窺いながらひそひそと問う。
「よく見て。細い葉っぱにとまってるよ。ほら、そこ」
と男の子―エイトが指差す先には草の葉に同化するかのように飛蝗がいた。
「えっ、どこ?」
けれどもミーティアには見付けられない。慣れない眼では自然の中で飛蝗を見付けることは難しい。
「ほら、そこだってば」
エイトが焦れたように言った途端、飛蝗は飛び立った。
「あっ」
「逃げちゃった」
しょんぼりするミーティアにエイトは言う。
「またすぐに見つかるよ」
するとがっかりしていたミーティアの顔がぱっと輝いた。
「あっ、エイト、あれかしら!」
さやさやと揺れる草の先、大きな飛蝗がのんびり草を噛む。
「でっかい!トノサマバッタだ!」
真夏の午後、きらきらと輝く草原。永遠に留めてしまいたい時の中、二人の子供はいつまでも飛蝗を追いかけていた。
                                      (終)




2005.7.21 初出 








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