決め台詞




青い空、白い雲、暖かな風に足取りも軽くオレは久しぶりにトロデーン城に向かっていた。いや、嫌われているとかそういうんじゃない。ただ、行けば行ったであのバカップル(言わずと知れたあいつらだ)がいる。何だかもう、あいつらの勢いに押されっぱなしで城を出る時にはいつもよれよれになるもんだからつい足が遠のいてしまってたんだよな。
そういったムカつく気持ちがあることは否定できないんだが、まあ古い仲間に呼ばれて会いに行くというのに断る理由はない。春が来た祝いの宴があるというのでこうして向かっている。

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うん、色々思うところはあるがトロデーンの宴会は悪くない。料理は美味いし給仕の作法は完璧だ。ミーティア姫様が音楽好きであるせいか、楽士も巧い奴が揃っている。メイドさんも可愛いしな。
あいつらとの話も大分弾んでしまって、つい夜も更けてしまった。
「せっかくだし、泊まっていきなよ」
というエイトの言葉にオレはつい、頷いてしまったんだよな…


真夜中を少し過ぎた辺りで、小用で部屋を出た。何の問題もなく用を足してさて部屋に戻ろうか…
ん?
ここはどこだ?
寝ぼけていたせいか違う廊下に入り込んでしまったらしい。まあいい。ここはトロデーンだ。いざとなったら可愛いメイドさんの寝床にお邪魔するというのもありだろうし。
おっと、ここは行き止まりか。じゃ、戻るか。…ん?
「…あ…だめ…」
何だ?声は姫様っぽいけど。
「…あっ、いたっ!…そこ…ああっ」
こ、これはもしや!オレの足は意思に反して傍らの扉の方に向かっていた。そうするとさっきは聞こえなかった物音も聞こえてくる。
「ここ?ミーティア?」
あの声はエイトだ。
「だっ、だめっ、そこっ…んんっ」
ううっ、何っつーところに行き会っちまったんだ、オレ!
「ここがいいんでしょ?ほら」
「あっ、んっ、やっ、エイトっ、いたっ」
「こんなになるまで我慢しちゃ駄目だよ」
まったく、純情そうな顔しといて鬼畜な奴め。誰もがあの顔に騙されるんだよなあ…
とか思いつつも、あそこまで姫様を悦ばせてやれるエイトがちょっと羨ましかったりしたのは秘密だ。
「ほら、力抜いて」
「あ…んっ…」
オレは忍び足でその場を離れた。そろそろむなしくなってきたのもあったしな。

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次の日、妙に晴れやかな顔をした二人がいた。
「おい」
姫様なんてお肌つやつやだ。放っておけばよかったのかもしれないが、何か一言言ってやらないと気がすまない。
「…ゆうべはお楽しみでしたね」
「は?」
すっとぼけたふりしやがって。分かってんだぞ。
「いや、分かってるって」
「…そう?」
「そうだ。だがな、やり過ぎは禁物だ。それに姫様が本気で嫌がることはするんじゃねーぞ」
言うべきことは言った。オレはすっきりした気持ちで釈然としない顔のエイトとミーティア姫に別れを告げ、城を後にしたのだった。

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「ねえミーティア」
「なあに、エイト」
残された二人が会話している。
「ククール、変じゃなかった?」
「そう?何の話をしていたの?」
「うん、言いたいだけ言って帰っちゃったから…『ゆうべはお楽しみでしたね』って」
「まあ…楽しかったかしら?ミーティアはとっても気持ちよかったけれど、エイトは大変だったと思うの」
「ううん、そんなことないよ。ミーティアが気持ちよければ」
「ごめんなさいね、エイト。いつも肩揉みさせてしまって」
「アクセサリーって重いんでしょ?ドレスだって結構重かったし。肩も凝るよ。これくらい平気だから、いつでもやってあげるからね」
「ありがとう、エイト」
「…やっぱり変な奴だよね、ククールって…何が言いたかったんだろう…」


                                             (終)




2007.4.24 初出









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