それぞれの明日




「ところでさ」
のんびり食事をしている時にふと思い出し、ヤンガスに話しかけた。
「あの錬金術士、元気にやってる?」
「元気にやってるでがすよ。最近大分慣れたみてえで、『やっと金塊二個目取れた!』って大喜びしてたでがす」
温かい南瓜のスープ(苦心して保温した状態で持ってきた)を飲みながらヤンガスが答える。
「そっか。それはよかった」
「最初はあんなひょろいうらなり、大丈夫かと思ったんでがすが、持ちこたえたでげすねえ。陽に焼けて、ちっとは見られるようになってきたでがす。おまけに持病だったらしい頭痛と肩こりが治ったみてえで」
「あはは」
ヤンガスの言葉に笑う僕の横で、ミーティアが頚を傾げた。
「肩こりがなくなるの?じゃあミーティアも魔物狩りをすれば肩こりが治るのかしら?」
「ちょっ…ミーティア!そんな危ないことしちゃ駄目だって」
ミーティアはたまにずれたことを言うんだよな。いや、理論上は合っているのかもしれないんだけど、いきなり飛躍しすぎだろう。
「どうして?あの錬金術士さん、随分痩せていらしたわ。ミーティアにだってできるかもしれないわ」
「あの人は元々、簡単な護身程度なら武器を使えるらしいんだ。推薦状にもそんなことが書いてあった。
ミーティアは武器なんて使ったことないだろ。危ないよ」
「でも肩こりが治るのでしょ?」
言葉を尽くして諦めさせようとしたんだけど、ミーティアも引き下がらない。
「まあ女の人はどうしても肩こりしやすいって話でげすし、軽い運動でもすりゃあいいんでねえかとおもうんでがすがねえ」
困っている僕にヤンガスが助け舟を出してくれた。
「軽い運動…」
「お父様のなさっているトロデーン第一体操かしら」
「まあ姫様はお忙しいでげしょうし、時々肩揉みでもするといいでがすよ。その、ドレスっていうんでげすか、着ている服が重いって聞いたもんで」
「ああ、そうか」
言われてみればドレスって重い。豪華なものになると完全武装並みの重量になる。身体に添うように作られているからそんなには重さを感じないって言ってたけど、実際には身体で支えている訳だし。
「そりゃ肩も凝るわ…」
これからは毎晩ミーティアの肩を揉んでやろう、と心に決めたところでふと疑問が浮かんだ。
「それにしてもよく知ってるね。そういうことはククールの得意分野のように思ってた」
途端にヤンガスが口篭る。
「いやその…まあ…ゲルダの奴がその…最近ドレスなんぞを着るようになって、そんなことを愚痴たれていたもんで」
「ふーん、そうなんだ」
何だ、そういうことか。ちょっと気にしてたんだけど、仲良くやってるみたいでよかったよ。でも、二人とも大人なんだし、実はあんまり心配はしていない。
「あっ!」
と言ってる端から丘の下の方で火柱が!
「わあっ、しゅごい!」
子供は手を打って喜んでいるけど、あれはまずい。
「ゼシカさんたら、少しは手加減なさったらよろしいのに」
なんてこと、おっとり言ってる場合かい。
「行くぞ、ヤンガス!」
ああもう、ククールも命知らずなんだから。
「合点でがす!」


2010.2.24 初出 






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