時の外で




互いの身体を清め合った後、ミーティアが枕元のテーブルに置かれていた薄物に手を伸ばそうとした。
「駄目」
その手を搦め取り、身体をしっかりと胸に抱き直す。
「エイト、離して。このままでいたら風邪を引いてしまうわ」
何とか離れようともがくミーティアをますます強く抱き締める。
「寒くないよ。むしろ暑いくらいなのに」
「だって」
「寒くない、でしょ?」
ややあって、微かに頷く気配が胸に伝わる。そして僕の胸に身体が預けられた。その柔らかく滑らかで優しい重み。
「ミーティアの肌って、すごく気持ちいい…」
思わず呟いてしまった言葉に腕の中の身体がぴくりと反応した。
「だから?」
「うん」
抱き合ったまま、言葉を探す。
「何だかとっても安らかで幸せな気持ちになれるんだ」
「…分かるような気がするわ…ミーティアも、エイトの肌、好きよ…」
そのままじっとしていると、ふと腕の中のミーティアが笑った気配がした。
「何だかね、子供に還ったみたいな気がするの」
「子供はこんなことしないよ」
「うふふ、そうよね」
ミーティアがさらに笑う。胸に縋り付くことで僕の手の悪戯を封じて。
「可笑しいわよね。子供の頃は、こんなことするなんて思いもよらなかったのに」
「こんなことって?」
それくらいで封じられるもんか。
「…いじわるな人!」


「でも分かるような気がする」
さらに肌を上気させたミーティアを抱き締めつつ、耳元で囁く。
「え?」
息を整えていたミーティアが怪訝そうな声を上げた。
「さっきのこと。ほら、子供に戻ったみたい、っていうの」
何だか二人きりでいる時って妙に無邪気な気持ちになるんだよね。素直になるって言うか。意地悪言ってみたりもするんだけど。
「ああ……あのことね……分かってくれて嬉しいわ…」
ちょっと消耗させてしまったみたいだ。元はと言えば僕のせいなんだし、少しでも楽になれば、と癒してあげようとすると、
「あ…エイト…大丈夫だから」
と断られた。
「でも」
「本当に大丈夫……あのね、その代わりこのままでいて…」
本当のことを言うと、まだミーティアが欲しい。眉根を寄せている様子すら、愛おしい。でも無理はさせたくない。
改めて抱き直し、こつんと額を合わせるとどちらともなく笑いが洩れた。鼻先で互いに突き合って、小鳥が啄むような接吻を交わす。
「エイト」
「ミーティア」
「大好き」
「僕も、大好き」


                                          (終)

2006.3.2 初出 






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