間違い




ある日僕はトロデーン城の自室で一人、本を読んでいた。今日は久々に仲間が来るっていうのにお義父様からどっさり宿題を出されてしまって、急いで片付けなければいけないためだ。
でも二時間ぶっ通しで本を読み続けてさすがに眼が疲れたので本を閉じ、椅子に寄り掛かって目をつぶった。
せっかく仲間と会えるのに何で今日に限って…おかげでミーティアが一人で準備することになってしまったじゃないか。早く終わらせないとみんなが来てしまう。
でもこの椅子は座り心地がよくて何だかとても気持ちいいな。もうちょっとだけこうして…
そんなことを思っていたらそのまま眠り込んでしまったらしい。うっすら眠りから覚めてきた時、意識の遠くで部屋の扉が開く気配がした。
誰だろ、ミーティアかな?とぼんやり思っていたら誰かの手が僕の目を覆った。
「だーれだ?」
低い声色使ったって誰かは分かっているよ。
「声変えたって分かるよ」
そう言って目隠ししている手をたどって腕を背後に廻し、その頭を搦め寄せて、
「悪戯者のミーティアにお仕置き」
と言いつつ口づけした。
いつも何だかんだ理由を付けて口づけするミーティアの唇…ん?あれ、なんかいつもと違う?それに僕の顔にかかる髪もミーティアにしては短いぞ。でもこんなことするのはミーティアしかいないし、声はミーティアのものだし…
僕は思い切って廻していた腕を外し、恐る恐る目を開いた。
「いきなりチューでお出迎えかよ」
「うわっ!」
ミーティアだとばかり思っていたのに目の前にあった顔は何とククールのものだった。
「ななな何でククールがここに」
「びっくりさせてやろうと思って声だけ姫様に頼んで目隠ししたのにオレの方がびっくりだぜ。まさかお前に唇を奪われるとはな」
「いやーすごい見物だったでがすよ」
「いつもこんな感じなの?ほーんとラブラブなのね。うらやましいわ」
振り返るとヤンガスやゼシカもそこにいてにやにや笑いを浮かべていた。それに一緒になって笑っているミーティア、ってミーティアもグルか!
「まさかエイトがククールとキスするなんて思ってもみませんでしたわ。もしかしてエイトは男の方のほうがよろしいのかしら?」
ひどいよ、ミーティア!誰が好き好んで男とキスするんだよ。僕がキスするのはミーティアと、この先いつかきっと生まれてくるだろう僕たちの子供だけ、って決めていたのに。
なのに何で男と、と思ったら急に吐き気が…
「おっ、おええええええ」
「おえーとは何だ、自分からチューしておいて失礼な」
ククールがどうこうじゃなくて、恋人だと思っていたのが男だったら誰だっておえーだよ。
「…ま、お前まあまあ上手かったぞ。精進するんだな」
上手いってなんだよ、そういう問題じゃない。うう、何とも嫌な感触だ。これがミーティアなら嬉しかったのに。
「あちらの部屋にお茶の準備ができておりますわ。ゼシカさんにお借りしたご本に、とても美味しそうなお菓子がありましたの。ぜひみなさんに召し上がっていただきたくって」
「そいつは楽しみでがす。アッシは甘い物も結構いけるでがすよ」
「あの本、役に立っているみたいでよかったわ。私料理ってちょっと苦手で、あの本今まで使ってなかったのよ」
「姫様の手作り菓子を食べられるとはうれしいね。エイトもいつも食べているんだろ?」
僕を無視して話を進めるな!それにあんなことするようなお前らにミーティアの手作り菓子なんか食わせるものか!
「ひ、ひどい…」
怒りのあまり声もでない僕を後目にゼシカは薄情にも、
「さっ、行きましょ。エイトも早く来ないと私たちで全部食べちゃうわよ」
と言うと三人連れ立って部屋を出て行ってしまった。


「ごめんなさい、エイト」
三人がいなくなるとミーティアが申し訳なさそうな顔で謝ってきた。フンだ。この傷ついた男心をどうしてくれる。ちょっと謝られたぐらいでは許さないぞ。
僕が黙っていると、ミーティアはますます困った顔になった。まずい、その表情をされるとつい何でも許したくなってしまう。すごくかわいいんだもの。
「…いいよ、もう。やっちゃったことはどうしようもないし」
とぶっきらぼうに言った後、ふといいことを思い付いた。
「ミーティアがキスしてくれたら許してもいいかな」
「エイトったらいつもそればっかり!」
とミーティアは言ったものの、腕を僕の身体に廻すと頬に唇を寄せてくれた。
「…あれ、口にはしてくれないの?」
とちょっと意地悪言ってみたんだけど、
「それはまた今度。さっ、一緒に行きましょう」
とあっさり切り返されてしまった。ちょっと残念。
でも今度っていうことは次があるんだね。その時を楽しみにして、今日のところは負けておくよ。


                                    (終)




2005.2.4 初出 2007.2.18 改題(「バカポーネタ第五弾」より)









トップへ  目次へ