真夜中の散歩〜intermezzo〜




春まだ遠いトロデーン城の寝台の中で、僕たちは密談していた。
「だから、内緒で出かけるのはよくないって言ってるでしょ。この前だって結局お父様に見つかって大目玉だったじゃない」
この前の真夜中の散歩は結局お義父様に見つかって、二人して怒られてしまったんだ。でもスリルがあって楽しかったんだよね。
「何言ってるんだよ、ミーティアだって結構楽しんでいたじゃないか。それにあんな場所で色っぽい目で僕を誘うし」
そう言いながらミーティアの頬に口づける。
「そっ、それとこれとは別問題よ。ああいうことするはよくないって言っているの。周りの人に迷惑をかけてはいけないでしょ」
頬を染めつつ反論するミーティアはとてもかわいい。でもここで引き下がる訳にはいかない。ミーティアの黒髪を手で梳いてやりながらこう言った。
「でも、出かけるって言ったって二人きりで出かけられないじゃないか。必ずお付きの人がくっついてきて『姫様、それはいけません。エイト様、斯様な行動はお慎みください』って休まる暇もないよ」
「それはそうだけど…」
「僕たち夫婦なんだよ、一緒の時間が持てなくてどうするの。たまには二人きりで出かけたいよ」
と畳み掛けるとちょっと困った顔をした。
「…それはミーティアだって二人で一緒に出かけたいわ」
「でしょ」
「でもお父様に心配おかけするのはよくないと思うの」
「うっ」
そう言われてしまうと反論の余地はない。でも…
「二人きりになれるのってこの小さな空間しかないじゃないか。真っ昼間からここに籠り切りって訳にはいかないでしょ?僕はいいけど」
いや、まあ人払いすればいいだけなんだけど、「後は下がって結構です」って言うのって結構恥ずかしい。要するに、その、これから人には見せられないことをします、って言っているようなものだし。
「そっ、それはちょっと…」
まあミーティアの躊躇する気持ちも分からなくはない。いつもミーティアの部屋で朝を迎える僕なんて、かつての同僚たちに、
「若いなあ」
「最初から飛ばし過ぎはよくないって」
「ほどほどにしないと腎虚になるぞ」
とことあるごとに言われている。最初はいちいち反応していたけどもう慣れっこだ。
それにしてもほっといてくれよ。こっちは何年も想ってきた人と晴れて結ばれたんだぞ。多少のことは大目に見て欲しい。大体腎虚って何だ。
「じゃあさ、お義父様に頼んでみるから。『二人で出かけたい、できればお忍びで』って」
多少は譲歩するか。「二人きり」っていうのが一番のポイントなんだし。
「…ええ、そうね。それならいいかしら」
渋々、といった感じでミーティアは頷いたけど、本当は嬉しいと思っていることを知っている。その証拠に、ほら、はにかんだ目をしている。
「今夜はどこに行くか考えようか。眠りに入るまでの間」


                                             (終)




2005.3.4 初出 2007.2.23 改定









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