真夜中の散歩〜回り道篇〜




ちょっとした悪戯のつもりだった。泉の水を口移しで飲ませたのは。
でもミーティアの柔らかな唇に水を含ませた後、腕の中の身体が一瞬震えて喉が動くのを感じた途端、僕の中で何かが弾け飛び、つい深く激しくミーティアの唇を貪ってしまった。
ゆっくり唇を離すとミーティアの目が開かれた。あの美しい碧の瞳は、濡れていた。これは僕と交わしたさっきの接吻のせい?毎夜愛を重ね合って、いつもミーティアを愛おしくかわいらしく思ってきたけど、そんな瞳は初めて見た。匂うように美しく、目も眩むようなそんな顔をするなんて、僕のせい?僕が呼び覚ましたの?
「続きはトロデーン城で」
とは言ったけどもう我慢できそうにないよ。あなたが僕を欲しいと思うように僕もあなたが欲しいから。
もう一度ミーティアの唇を奪う。さっきよりももっと激しく。微かなミーティアの喘ぎがますます僕を駆り立てた。そのまま上体に力を込めて草の上に組み敷く。ミーティアがぶつかって痛い思いをしないよう胸の中に包み込んで唇を合わせたまま倒れ込むと、草の匂いが立ち上った。
「ミーティア…」
唇を離しそう呟くとミーティアも目を開いた。
「エイト?」
でも僕を見上げるその目はいつもの、いや、むしろ悪戯な表情を覘かせている。
「どうしたの?トロデーンに帰るんでしょう?」
「いや、その」
「続きはトロデーンで、でしょ」
全くミーティアには敵わない。くるくる変わるその表情に僕はいつも翻弄されっぱなしだ。でも悲しい言葉で僕の心を掻きむしってくるよりは翻弄されていたい。
「…そうだね。戻ろうか」
今、ここで、と思わなかった訳じゃないけど、でもいいんだ。幸せな時間は続くんだから。
ミーティアを抱き上げながら願う。この幸せを守り抜く力を僕に、と。


                                             (終)




2005.2.22 初出









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