流星の姫君




「王様、もう夜半を過ぎました。そろそろお休みになられた方が」
怪談話で一頻り盛り上がった(正確にはククールの怯えっぷりなんだけど)後、僕たちは火を囲んで休むことにした。しばらくすると規則正しい寝息やいびきが始まる。僕は今夜の見張りだったので起きていたけど、火の向こうで王様がまだ星を眺めていた。
「ん?そうか、そうであったな」
八日の月は西に沈み、もう真夜中を過ぎたことを示している。
と、北東の空に一瞬鋭く銀色に光り駆けていくものが見えた。また一つ、さらに一つ。
「そうか…もうその時期であったな」
目で追いながら王様が呟く。
「姫が生まれたのもこのように星の降る夜じゃったの…あれは初冬だったが…」
「王様?」
「先程の話で思い出してしもうたわい」
王様はあの方の耳を憚るかのようにひそやかに話し始めた。

              ※          ※          ※

難産になるだろうということは前々から予測しておったのじゃ。医者からも、
「もう二度と身籠ってはなりません」
と言われておったからの。
にも拘らず、
「トロデーンの世継ぎを、あなたの血を分けた子を産まずしてどうして妃の務めを果たせましょう」
と言うての。
結局妃は姫を産むことはできたものの、そのまま亡くなってしもうた。
「この子を幸せにしてやってくださいませ」
という遺言だけ残しての。

              ※          ※          ※

「その言葉を思えばこそ、あの縁組も最良のものに思えたのじゃが…」
そう仰って一つ溜息を吐いた。
「のう、エイト。おぬしはどう思う?より間近にあの王子を見ておろうが」
突然の問いに僕は何も答えられなかった。でも突然であろうとなかろうと答えられただろうか?
『チャゴス王子様は性根腐ってます。お止めになられた方が。あれでは姫様もお幸せにはなれないでしょう』
とはとても言えない。
「…聞いても詮無きことじゃったな。これはワシの独り言じゃ」
無言で俯く僕を気遣ってくださったのか王は一人頷くと、
「さて、ワシはもう寝るとするかの」
と馬車の中へ入ってしまわれた。


なおも星は流れる。次々に、絶え間なく。
暗黒神の野望は絶対に阻止してやる。そして王とあの方の呪いは何としても解く。
だから一つだけ願ってもいいだろうか。


あの方の、幸せを…

                                  (終)


2005.8.13 初出 






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