兵たちは見ていた



「そろそろ交代の時間だけど、まだこないな、あいつ」
西側三階のテラスで見張りをしていた兵士が相棒に話し掛けた。
「ああ、エイトか。さっき宿舎のドアから出てきたぞ。図書館の方から廻ってくるんじゃ…ん?」
話し掛けられたもう一人は身を乗り出して下のテラスを見た。つられて最初の兵士も下を覗き込む。
「あっ、エイト、何姫様と話しているんだろ?」
「…バカだな、あいつ。必死になって姫様を避けていたのによりによってこんな晩に会っちまうなんて」
「避けてるって?姫様を?」
「避けているだろ、どう考えても。わざわざ『王女様』と呼んでみたり、仕事作って護衛につかないようにしているじゃないか」
階下のテラスでは何やら深刻そうな会話が交わされているようだったが、こちらまでは聞こえてこない。
「でもあいつ、姫様のこと好きなんじゃ…」
「おまえ、好きになったってどうしようもない相手だぞ。それが誰かと結婚するとなったらどうする」
「…だな」
「あいつは何にも言ってはくれないが、夜どうし寝返りうってはため息ついているよ」
「…気の毒に」
「全くだ」
「待って」
階下からトロデーン王女の声が小さく聞こえた。二人は何ごとかと耳を澄ませ、より胸壁から身を乗り出した。
「それが…本心…どこぞ…結婚…」
「ミーティア様!…この僕がどんなに…」
二人は顔を見合わせ、体を胸壁上からひっこめた。
「…気の毒になあ」
「全くだよ」
「何とかしてやりたいけどこればっかりはなあ」
二人揃って「はぁ」と大きなため息を漏らした時、西塔のドアが開いた。
「遅くなってごめん。何か異変はなかった?」
「お、おうエイト。遅かったな。異変はない。このまま見張りを続けてくれ」
そう言うと最初に話し掛けた兵士は塔内の詰め所へ入っていった。
「今晩もよろしく」
「お、おう」
残された兵士はまさか立ち聞きしてしまったとは言えず、何とも気まずい思いをしたとかしなかったとか。
しかしその直後に城は災厄に見舞われ、この件はうやむやになってしまったのであった。

                                         (終)


2005.1.6 初出 






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