よく晴れた朝、エイトは歩哨の当番のため、図書館前に一人立っていた。昨夜の雨に木々の緑が一層鮮やかに目に染みた。
(こんな朝、二人でこっそり遊びに出かけたんだった…)

           ※          ※           ※

「まあ、なんて綺麗なの!この白珠のようなものは何かしら?」
朝日に煌めく白露を初めて見たミーティアは歓声を上げた。
「これは朝露だよ。昨日夜寒かっただろ?そういう晩に下りるんだって庭師のおじさんが言ってたよ」
何がそんなに珍しいのかと思いながらエイトは答えた。
「まあ、これが朝露なのね、初めて見たわ。エイトとお出かけするといろんなことが分かって嬉しいわ」
エイトは照れ臭くなってちょっと目を逸らした。
「お城ではあまり外に出ることがなかったから…ご本で読んだだけだったの。」
ミーティアはかがんで足元の花に着いた露をうっとりと見つめた。そんな姿を見ているうちにむらむらと悪戯心の湧いたエイトは、手近の露のたっぷり着いた草を折取ると「そらっ」とミーティアに投げた。
「きゃっ、冷たい!」
「はははっ、ぼんやりしているからだよー!悔しかったらここまでおいでーだ」
言うより早く駆け出すエイト。朝の空気が心地よく体を包む。
「もう!エイトったら!」
ミーティアも始めは怒っていたが追い掛けているうちに可笑しくなったのか笑いながら駆けて来る。
「あっ」
「どうしたの?」
前を行くエイトが急に立ち止まり、前方の草むらを覗き込んだのでミーティアも一緒に覗き込んだ。
「おっきいカエルがいる!」
「カエル?」
目を輝かせて指差すエイトに怪訝そうに問うミーティアだった。
「カエル見たことない?…待ってて、今捕まえて来るから」
エイトはミーティアの「待って」という言葉も聞かず草むらの中に分け入った。


ややあって、満足気な顔でエイトは草むらから出て来た。手には大きなカエルを掴んでいる。
「ほら、カエルだよ。でっかいだろ!」
ミーティアは恐る恐るカエルの顔を覗き込んだ。エイトの両手で掴まれたカエルは以外にのほほんとした顔つきをしている。何故か親近感を持ったのはどこか父王に似ていたからなのかもしれない。
「ミーティアにも捕まえられるかしら?」
「やってみる?」
「うん!」

           ※          ※           ※

(あの後散々カエル取りして二人とも泥だらけで城に帰ったっけ。随分怒られたよなあ)
すぐ横の溝からあの時のカエルにも匹敵するような大きなカエルが顔を出した。
(まさかカエル取りしちゃうとはね。)
でももうそんなことはないのだ、とエイトは唇を噛んだ。
(僕たちはもう子供じゃない。あの頃のように無心ではいられない。それに…)
数日前、サザンピークからの使者が来たのだから。
輝くばかりのミーティアの花嫁姿を見ていることしかできないのだから。
カエルはエイトの足元をゆっくり跳びはねて噴水の方へ向かった。何気なくその様子を見ていたエイトは、
(ん?人面!?)
と慌てて目をこすって見直した。
(何だ、背中の模様か。そうだよな、背中に人面があったら化け物だよな)
エイトは城の三階を振り仰いだ。
(なるべく顔を合わせないようにしよう…)
そう心に誓うと剣の柄を握りしめた。そうでもしないと泣いてしまいそうだったから。


                                               (終)




2005.1.8 初出  2005.11.1 改定 









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