トロデーンのメイドさんの語る2





私はトロデーン国の王女様でいらっしゃるミーティア様にお仕えしておりますメイドでございます。
恐ろしい災厄に見舞われた城もエイト─いえ、これからはエイト様でいらっしゃいます─のご活躍によって元の威容を取り戻し、めでたく今日という日を迎えることが出来たのでございます。
姫様は朝からそわそわなさっておいででございます。
鏡に向かわれては何度も、
「おかしくないかしら?」
とドレスを気になさったり、ティアラを直そうとなさいます。
「姫様、大層お美しゅうございますよ。そのようにティアラに触られてはお式の最中に落ちてしまいます」
と申し上げましても、
「でも何だか変な気がしますわ…エイトは変に思わないかしら?」
と気になさるご様子。
私のような者があれこれ申し上げることは憚られますが、姫様はエイト様とのご結婚が決まられてからそれはもう輝くばかりのお美しさでございます。
お仕えする私どもにまでこぼれるような笑顔を振りまかれるお姿をお見申し上げるにつけ、エイト様とご結婚なさることになられて本当によかったと思うのでございました。


先触れがございまして、王様が部屋においでになられました。
「おお、姫や、…」
「お父様!」
姫様のお姿をご覧になられ、胸に迫るものがございましたのでしょう、言葉に詰まられた王様に姫様は向き直られ、腰をかがめられました。
「今日という日まで私を育てて下さってこと、心から感謝申し上げます。お父様から受けた愛を、決して忘れません。ありがとう、お父様」
姫様の眼から一粒の涙が零れ落ちました。
「姫や…よかったの。今度こそ幸せになるのじゃぞ」
「はい、お父様」
何と申してもこの世でただお二方の肉親でいらっしゃいます。姫様も王様もただただ涙を拭っていらっしゃいました。


式の刻限が迫って参りました。
羽根のように薄いヴェールを王様に差し上げると、王様は椅子の上から姫様の頭に被せられ、
「さあ、参ろうかの。これからはエイトが姫の手を導いていくのじゃから」
と仰せになりました。
姫様も先程とは変わられてしっかりと、
「はい、お父様」
とお答えになられ、王様に手を取られ部屋をご出発なさいました。
私もヴェールを捧げ持つためお供申し上げます。静々と城内を通り、一旦外に出て城正面の扉の前に到着致しました。
式はトロデーン城でお世話になった方々、旅の途中お世話になった方々に参列して欲しいという姫様とエイト様の願いを王様も尤となされ、玉座の間を設えて行われます。
扉の前に立たれた姫様は緊張なさっておいでのようでございましたが、扉がさっと開かれますとしっかりとした足取りで王様と歩を進められました。
広い玉座の間もたくさんの人々で埋め尽くされ、通常玉座の置かれる場所には旅の途中、お世話になったという新教皇様が立たれ、直々にお二方を祝福なさいます。
そしてその手前にエイト様が─白の礼服を召され─姫様を見守っていらっしゃいました。
思えばかつてこの玉座の間で震えながら視線を交わすお二方に、私は心を痛めるばかりでございました。ですが、幼い日からの長い想いを叶える今日という日が来たことを僭越ながら神に感謝申し上げます。


祝宴も果て、姫様は部屋に戻っていらっしゃいました。間もなくエイト様もこちらにいらっしゃるはず。
願わくばお二方の行く末に幸多からんことを。


                                    (終)




2005.1.17 初出









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