秘密の日記帳




秘密の日記帳





○月△日 晴れ
今日から私ことミーティアは日記をつけることにしました。
先生のおっしゃることによると、「自分をかえりみる練習」になるそうです。
でもどんなことを書いたらいいのか初めてなのでよく分かりません。
そう先生に申し上げたら、
「身の回りのことを書けばよろしいのです」
とのことでした。
身の回りのこと…でもミーティア、じゃなかったわ、私の身の回りって毎日同じことの繰り返しのような気がします。
「同じように見えても全く同じではありませんよ」
とも言われました。

書き続けられるよう、頑張ります。



○月×日 晴れ時々くもり
今日の朝食にそら豆の冷製ポタージュがでました。
お父様はうれしそうに、
「こういうものが食卓に並ぶと春を感じるのう」
とおっしゃっていました。
食後、エイトが食器を下げに来てくれたので、
「とってもおいしかったわ、ごちそうさま、って厨房のみなさんに伝えてね」
と言づてしました。

今日はピアノの稽古をしました。今習っている曲は難しくてなかなか弾きこなせません。
「エチュード」って練習曲ですわよね。
こんなに難しいなんてもう練習曲の範囲を超えてますわ。



○月◇日 雨
昨日の夜から降り出して、今日は一日冷たい雨でした。
天気の移り変わりが早くて、体調がすぐれません…
仕方なくずっと部屋にこもっていたらエイトがお花を持ってきてくれました。
「ありがとう。とってもうれしいわ」
って言ったのに、
「どうってことないよ」
って愛想ありませんでした。

最近のエイトは時々ぶっきらぼうでさびしいです。



○月○日 晴れ
今日はとってもいい天気でしたわ!
午前中のお勉強が終わった後、外に出てみたらエイトが槍の稽古をしていました。
でも長過ぎて扱いにくそう。槍を振り回すと自分も一緒に回ってましたもの。
「まだ習ったばかりだもん。これからだよ、これから」
そうエイトは言っていました。
ええ、きっとうまくなると思うわ。

今日は難しかったフレーズもようやく弾けるようになりました。
明日もピアノ頑張ります。



△月○日 晴れ
今日は晴れていたけれど風が冷たい一日でした。
お父様は神経痛がひどくなってしまい、夕食はご一緒できませんでした。
明日はお元気になりますように。
食器を下げに来てくれたエイトも一緒に願ってくれました。



△月△日 みぞれ
ああやっぱり…昨日あんなに冷たい風が吹くなんて、と思っていたら今日はみぞれ混じりの冷たい雨でした。
こんな天気ではお父様もさぞおつらいでしょう、と思ってエイトに手伝ってもらい、夕食後ハーブティーをいれてお父様のところへ持っていきました。
お父様はとっても喜んでくださって、顔色も良くなったように見えましたわ。



△月×日 くもりのち晴れ
お父様はまだちょっと痛むようです。でも雨は上がりましたので庭に出て花をつみ、お父様に差し上げました。
庭でエイトがブーメランの稽古をしていました。
でも投げたブーメランはエイトの手元には戻らず、あさっての方向へ飛んでいって木に引っかかってしまいました。
…大丈夫よね?



△月◆日 晴れ
先生に、
「エイト以外のことも書くようになさってください」
と言われてしまいました。
そんなにエイトのことを書いていたかしら?お父様とピアノのことばかりだと思ってましたわ。

夕方エイトが部屋の前のテラスに来てくれたので少しおしゃべりしました。
「槍のあつかい、うまくなったんだよ」
と言うので、
「すごいわ、見せて」
と言うといろいろ振り回した後、槍をくるくると回し…くるくる…ゴン!
「いてっ!」
回している最中に槍はエイトの手を離れ、頭の上に落ちてしまいました。
「大丈夫?!」
「へっ、平気だよ、これくらい」
と言っていましたけれど、涙目でしたわ。

エイトは細いし、兵士に向いているのかどうか、何だか心配になってきました…



◇月○日 晴れ
今日もいいお天気でした。
こんな日にお部屋の中でお勉強なんてちょっとしょんぼりです…
新しい先生がいらっしゃったので今日はその先生とお茶を飲みながら顔合わせをいたしました。
何だかちょっと気むずかしそうな方。
授業も難しそうです…気が進まないの…

いけないわ、ミーティア。
立派な大人になるための授業なのですから、文句を言うんじゃありません。



◇月×日 晴れ時々くもり
気になって日記を読み返してみました。
エイトのこと…確かにほとんど毎日書いていたかもしれません。
でも限られた毎日の中、何か違いがあるとしたらエイトと何かお話ししたりすることぐらいしかないんですもの。
前はお城の外に遊びに行っていたりしていたのに、最近はそういうこともありませんし。

エイトとお城の外へ遊びに行けたらいいのに。



◇月◆日 晴れ
ひどい、ひどいわ!「いいなずけ」って結婚のお約束をした人のことだったなんて!
知らなければよかったわ。大人になんてなりたくない!
なのに私…エイト…


名前を書くだけで胸がはりさけそう。



◇月△日 雨
今日は一日雨で、外には出られませんでした。
でも、それでいいのかもしれません。
外に出ればきっと目で追ってしまうから…
そんなことをして気付かれてしまったらどうしよう。
気付かれて、何もなかったようにされたり、嫌われてしまったら?
そんなのは嫌!

何もなかったようにしていくしかないの…



◇月◇日 雨
廊下で偶然、会えました。
曲り角のところだったので、本当に「ばったり」という感じ。
とってもとってもうれしい!
それにおしゃべりできたんですもの。ちょっとだけ。
他愛もないことなのに、とってもうれしいの。
その時、エイトといちごはお砂糖無しが一番おいしいって意見が一致しました。
お父様はいちごにブラウンシュガーをつけて召し上がります。
虫歯になっても知りませんわ。



×月○日 晴れ
もう先生にはこの日記をお見せしません。
机の中にしまいこんで隠しておきましょう。
だって私の秘密の想いなんですもの…


エイト、大好き。伝えられないけれど、世界で一番好き。                                          (終)




2005.4.16 初出 2006.12.30 改定
 









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