小さな勇気





ふふふ…何だ、それは?ワシを威嚇しておるのか?
愚か者め、ワシに勝てる訳がなかろう。おお、それも分からぬから愚か者なのじゃな。
それともこの姿に惑わされておるのか?ふふふ、所詮下種は下種。何も知らぬと見える。
ほほう、ワシに刃を向けるか。ワシに刃向かうその報い、自分の身を以って受けると申すのじゃな…よかろう。お前ごとき鼻息一つで事足りるのじゃが、その意気に免じて地獄の業火で焼き尽くしてくれるわ。何、骨一つ残らんぞ。良い死に方じゃろうて。
…ほう、逃げるのか。その下らぬ頭にも物の道理を弁えるだけの分別があったものと見える。
よかろう、今日のところは見逃してしんぜよう。じゃが、次に見えた(まみえた)時には腸まで喰らい尽くしてくれようぞ。

             ※           ※           ※

「トーポ、どこ行ったのー」
「トーポ、いらっしゃい。おいしいチーズがあるわよ」
遠くから二人の子供の声が近付いてきました。
「チュ」
「あっ、トーポ!こんなところにいたんだ。駄目だよ、勝手に出歩いちゃ。お城の猫は怖いんだから」
エイトがトーポを掬い上げます。
「チィ…」
トーポはエイトの手の中でしょんぼりした風を見せました。
「あら、そういえばあそこに猫がいるわ。トーポ、大丈夫だった?あの猫怖いのよ」
ミーティア姫の視線の先で、猫が知らん顔であちらの方へ歩いていきます。
「チュ」
姫の言葉にトーポは得意気に答えました。
「そう、怖かったの。でもよく我慢したわね」
ミーティア姫はそう言ってエイトからトーポを渡してもらうと、
「では勇敢なトーポにご褒美よ」
鼻先にちょんと口づけしたのでした。


                                          (おしまい)



2007.6.7 初出




トップへ  目次へ